NHKのBS時代劇で『塚原卜伝』をやっていた。BSは契約していないので見てはいないが、評判だと聞く。堺雅人の名演技のおかげか、卜伝その人の人間的な魅力によるのか、判然とはしない。剣豪の人気は剣の腕前以上に、その生き方にある。柳生十兵衛、その父宗矩、その父宗厳の柳生一族もしばしば映画やTVドラマになっている。今日は石舟斎柳生宗厳の伝説である。
奈良市柳生町(戸岩谷)に「一刀石」がある。このブログで紹介する史跡は詳細な説明を要するものが多いが、これは分かりやすい。
直線と少しの屈折、均一な割れ巾、前衛芸術のような美しさがある。上から転がり落ちて割れたのだろうか。山田熊夫『柳生の里』(飛鳥書房、S58)を読んでみよう。
一刀石
戸岩谷にある約七メートル四方のほどの巨石で中央から二つに割れている。柳生宗厳の修業中この戸岩谷にわけ入ったところ天狗がいたので試合をした。その時、宗厳が一刀のもとに天狗を切り捨てたと思ったが、刀はその場にあった巨石を二つに割っていた。
慶長6年(1601)に柳生宗厳は能役者の金春七郎氏勝に「新陰流兵法目録事(しんかげりゅうへいほうもくろくのこと)」を与えた。禅竹以来7代目の若き金春大夫は演芸だけでなく武芸にも熱心だったようだ。身のこなしに学ぶところがあったのだろうか。この兵法書には本文と絵目録があり、絵目録は岩波文庫『兵法家伝書 付 新陰流兵法目録事』で見ることができる。その中の「天狗抄」には8つの技法が図解されているが、いずれにも刀を構えた天狗が描かれている。
新陰流の何たるかを知らない私には、残念ながら、天狗が刀を構えている意味を説明できない。しかし、兵法目録の天狗と一刀石伝説の天狗は無関係ではあるまい。天狗の存在は別にしても、一刀石の割れ具合は石舟斎の精神性の高さを表しているように思える。
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