百姓を「おおみたから」と読ませるは我が国の美風である。人々の勤労によって国が成り立っている。国の礎を築く基幹産業とは、今も昔も農業、それも米づくりに他ならない。米づくりに勤しむ者らを宝と愛しみ、産業振興策を講じることこそ、国政を預かる者の責務である。
大阪市住吉区庭井2丁目に「依網池址」の石碑がある。近くには大依羅(おおよさみ)神社がある。
『日本書紀』巻第5の崇神天皇62年7月2日条に、次のような記述がある。
六十二年秋七月、乙卯(きのとう)朔(ついたち)丙辰(ひのえたつ)、詔(みことのり)して曰(のたまは)く、農(なりはひ)は天下(あめのした)の大(おほき)なる本(もと)なり。民(おおみたから)の恃(たの)みて以て生くる所なり。今河内狭山の埴田(はにた)水少し。是を以て其の国の百姓(おおみたから)農事(なりはひ)に怠(おこた)れり。其れ多(さは)に池溝(うなて)を開(ほ)りて、以て民(おおみたから)の業(なりはひ)を寛(ひろ)めよ。冬十月、依網池(よさみのいけ)を造る。
農業は国の基幹産業である。しかし今、河内の狭山池の水が少なく、農作業に支障が生じているという。そこで、ため池や水路を整備し産業を振興せよ。こうして依網池は造られた。以来、昭和までの長きにわたって、この地方の米づくりを支えてきたのだった。
今は石碑が建つのみだが、かつては大きな池であった。すぐ近くを江戸時代に付け替えられた大和川が流れる。この川によって池の大半は失われていくのだが、昭和50年代までは阪南高校の南側に小さな依羅池(よさみいけ)が残っていたらしい。
大依羅神社の境内に、阪南高校のグラウンドに突き出た形で「龍神井(りゅうじんい)」がある。これについて『よさみ風土かるた』の解説には次のように記されている。
言い伝えによれば、ここに竜神が封じ込められていて、干ばつの時にはここに雨乞いのお祈りすれば必ず大雨が降って田んぼが潤ったといいます。
依網池という古代からのため池。龍神井という雨乞いに効く井戸。農業振興の根幹である水の確保に努力した先人の姿が見えてくる。
大依羅神社の境内を歩いていると、封じ込められたという龍のしっぽが地上にのぞいていた。
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