自然の中で草木など緑色をしたものが、幾何学的な形をしていると目を引く。出雲平野にある長方形に見える屋敷林もその一つだ。ずいぶん前に資料だけは購入して知っていたのだが、実際に見たことがなかった。それから十数年、一昨年にやっと現地を訪れ写真に収めることができたので紹介しよう。
出雲市斐川町中洲に「築地松(ついじまつ)」がある。西側から撮影している。
こうした屋敷林を持つ家は出雲平野に点在しており、特徴的な景観をつくりだしている。集落地理学でいう「散村」という形態である。
2005年の愛・地球博に合わせて選定された「人と自然が織りなす日本の風景百選」に、「築地松のある出雲平野散居村」が入選している。散居村は散村と同義である。確かに人が自然をうまく活用している様子がうかがえる。
では、この背の高い屋敷林は、どのような効用があるのだろうか。『築地松物語』(斐川町総務課、H5)には6つ挙げられている。
1)冬期、日本海からまともに吹きつける強い季節風を防ぐため。
2)斐伊川の氾濫のときに、土地ごと流されるのを防ぐため。
3)築地松の枝おろししたものを燃料としてたくわえ、落葉を堆肥として活用するため。
4)火災の際の防火のため。
5)マテバシイの実やたけのこを食料の足しにするため。
6)屋敷の広さや築地松の高さなど、家の格式を表わすため。
出雲平野の築地松に並んで著名な屋敷林には、富山県砺波平野の「かいにょ」、宮城県仙台平野の「いぐね」がある。「いぐね」は東日本大震災において津波の漂流物から屋敷を守ったというケースがあったという。
ここ出雲平野の美しい景観も、人と自然の「共生」の大切さを教えてくれる風景であった。
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