鶴見俊輔氏が20日に亡くなったと、今日の新聞が大きく報道していた。「思想の科学」「べ平連」などで有名だそうだが、安保闘争もベトナム戦争も実感がない私には、それほどの関心があるわけではない。
ただ、記憶にとどめておきたいのは、鶴見氏が昭和31年に提唱した「十五年戦争」という概念である。戦後70年の今年、なぜあんな戦争になってしまったのか、と考える機会は多い。アメリカ相手の戦争と見られがちだが、もともとは中国との戦争だった。
では、なぜ中国と戦争になったのか。丹念に歴史をたどれば、昭和6年の満州事変で、取り返しのつかない一線を越えていることが分かる。それゆえ、満州事変(昭和6)から敗戦(昭和20)までを一続きに考えると、我が国に惨禍をもたらした戦争の構造が理解しやすくなるのである。
本日は鶴見氏を偲んで、一族ゆかりの場所を巡ってみよう。
高梁市備中町布賀(ふか)に「旗本水谷主水(みずのやもんど)布賀知行所跡」がある。高梁市指定の史跡である。
巨大カボチャはたまたまあったから写したものだ。ここが鶴見氏とどのような関係があるのか。まずは、碑文を読んでみよう。
布賀知行所の創始は元禄六年(一六九三)のことで陣屋又は代官所とも言った。水谷勝隆は寛永十六年六月五日常州下館藩主より成羽藩に転封寛永十九年には備中松山城主となる。勝隆勝宗勝美と三代五十二年にわたって、高梁の興隆につとめ、玉島新田開発などをはじめ、その功績はまことに偉大であり今日大きく評価されている。三代目勝美は病気のため元禄六年十月六日に三十一歳で卒去し近親の勝晴を養子として家を継がせようとしたがこれも翌十一月二十七日に十三歳で早世した。そこで一族相談の上で勝美の弟主水勝時に家督相続を願い出たが藩主卒後の養子は許されぬのが当時の常法でついに聞き届けられず領地は没収され主水には祖先の功によって、新地三千石を賜わり布賀に陣屋を置いた東西五十間南北三十間(元布賀小学校現在白雲荘)その後勝時勝英勝久勝政勝周勝得とつづき二代目勝英は元文二年五百石を加増された(上鴫村池谷村の内)六代目勝得は山上の布賀から交通に便利で川船の出入りする山裾の黒鳥へ滝川宗太夫普請奉行として弘化三年より三年の月日をかけ嘉永元年黒鳥知行所(現在鶴見医院)に移った。
布賀知行所の初代代官は稲葉藤右衛門広瀬藤四郎享保の頃熊本丹治鶴見定右衛門文政の頃熊本登鶴見友作天保の頃滝川宗太夫鶴見良輔鶴見安三郎各々代官を勤めた。
この間実に百六十年の長きに亘っている。文久三年水谷主水勝得が歴代領主中初の里帰りである。それから五年後に明治維新となり徳川三百年の歴史も終りをとげた。
水谷(みずのや)氏は備中松山藩主として三代続いたが、元禄六年(1693)に無嗣断絶により改易となり、松山城は召し上げとなった。この時、城請取りの役になったのが赤穂藩の浅野内匠頭であり、実際の交渉は家老の大石内蔵助が行った。
これに応対したのは水谷氏の家老、鶴見内蔵助である。大河ドラマ『元禄繚乱』12話で放映された「二人内蔵助」の会談だ。城請取りは成功裡に終わり、大石は恩賞をいただいた。このことは「大石内蔵助お気に入りの庭」で紹介している。
改易となった水谷氏は勝美の弟、勝時が川上郡内に三千石の領地を得て、旗本水谷主水(みずのやもんど)家として幕末まで続いた。旗本水谷氏自身は江戸勤めで、布賀の地に来ることはない。この地を治めたのは代官の鶴見家、熊本家、瀧川家であった。
鶴見内蔵助の直系は孫の代で絶えるが、内蔵助の娘の子が鶴見定右衛門良喬として名跡を継ぎ、水谷主水家二代目勝英のときに代官となった。以後、良喬-良峯-良顕-良輔(友作)-良憲-祐輔-俊輔と続くのである。
布賀知行所は高原にあり、気持ちよい場所だが、交通の便がよいとは言えない。幕末に近い頃、川沿いの黒鳥(くろどり)の地に知行所を移した。鶴見家は良憲の代に黒鳥から出ていくが、一族が跡地に住んだ。
高梁市備中町布賀に「黒鳥陣屋長屋門」がある。隣には「鶴海眼科医院」の洋館があり、ノスタルジックな街並みとなっている。
黒鳥を出た良憲は、新政府のもとで殖産興業に貢献することとなる。群馬県高崎市新町に「旧新町紡績所」という、今年国の重文となった建物がある。ここが官営工場だった時代に良憲が最後の所長を務めている。
鶴見俊輔の父、祐輔は良憲の子として群馬県で生まれ、政治家として第一次鳩山内閣では厚生大臣を務めた。母は後藤新平の娘だが、新聞によると、俊輔はこの母との間に激しい葛藤があったという。俊輔が権力を懐疑的に見たのは、このあたりにも淵源があるのかもしれない。
俊輔は自らの祖先にも関心を持っており、「黒鳥陣屋のあと」という一文もある。黒鳥は今は鄙びた街並みで、安保とも紛争ともまったく関係がないかに見える。こんな感傷も平和あってこそだ。右傾化が懸念される昨今、俊輔の運動は良識ある多くの市民によって、必ずや受け継がれていくことだろう。
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