現代日本外交の基軸である「日米同盟」は、将来どのように評価されるのだろうか。日本の平和と安定に寄与したことは疑う余地がないが、辺野古に象徴されるように、基地提供という負担も大きい。
かつての「日独伊三国同盟」は、冥土の旅の一里塚のようなもので、懐かしむ人さえいない。では、さらにさかのぼって「日英同盟」はどうだろうか。その意義について考えたい。
玉野市田井二丁目の深山イギリス庭園の前に「日英同盟100周年記念植樹」のイングリッシュ・オークがある。
石碑に「平成14年4月29日」と刻まれてるので、2002年の祝日「みどりの日」(現在は昭和の日)に植樹されたことが分かる。日英同盟(Anglo-Japanese Alliance、日英協約)の調印は、百年前の1902年1月30日にロンドンで行われている。日本側全権は駐英公使・林董、イギリス側は外相・ランスダウンである。
百年の時を経て、英国大使館は「日英グリーン同盟(uk-japan green alliance)」という記念行事を実施し、全国各地に英国産オーク204本を植樹した。深山公園での植樹には在大阪英国総領事館のフック総領事も参加した。
日英同盟と玉野市に特別なゆかりがあるわけではない。関係があるとすれば、植樹の2年前にイギリス庭園が開園していたことだろう。ここは、日英同盟百周年を記念した植樹活動が行われた場所であり、いつも紹介しているような史跡ではない。しかし、日英同盟とは何だったのかを考えるのにはふさわしい場所だろう。
オークションで入手した日英同盟を記念する絵葉書が手元にある。「三越呉服店謹製」とあり、百貨店ならではの上品さが感じられる。そして「明治卅八年凱旋観艦式紀念38.10.23」「明治卅七八年戦役陸軍凱旋観兵式紀念39-4-30」のスタンプが押されている。日露戦争を勝利に導いた連合艦隊の凱旋観艦式は明治38年10月23日に横浜沖で行われた。陸軍の凱旋観兵式は明治39年4月30日に青山練兵場で行われ、明治天皇のご親閲を仰いだ。当時、日本社会は祝賀ムードに包まれていた。
注目したいのは「日英新同盟紀念」という語句だ。日英の同盟関係が、日露戦争において日本の勝利に大きく寄与したことは、よく知られている。勝利後の明治38年(1905)8月12日に、新たな日英協約がロンドンで結ばれた。これを記念したのが紹介している絵葉書である。
新協約では、日本の韓国における優越権に加えて、イギリスのインドにおける優越権を認め、関係性は防御同盟から攻守同盟へと強化された。そして、ロシアとの関係改善が進むと、ドイツを仮想敵国と見なすようになった。日本の権益について規定した第3条を読んでみよう。
第三條 日本國ハ韓國ニ於テ政事上、軍事上及經濟上ノ卓絶ナル利益ヲ有スルヲ以テ大不列顛國ハ日本國カ該利益ヲ擁護増進セムカ爲正當且必要卜認ムル指導、監理及保護ノ措置ヲ韓國ニ於テ執ルノ權利ヲ承認ス但シ該措置ハ常ニ列國ノ商工業ニ對スル機會均等主義ニ反セサルコトヲ要ス
明治44年(1911)には第三次協約を結び、アメリカを適用範囲外とすることで、イギリスが日米間の対立に巻き込まれる可能性を排除した。そして日本は、日英同盟を理由に第一次世界大戦に参戦し、ドイツ戦に勝利した。戦後の大正12年(1923)に、米英仏日による四カ国条約の発効により、日英同盟は発展的に解消された。時代は国際協調による安全保障体制へと移行したのである。
日露戦争の勝利や第一次世界大戦への参戦を通じた国力の伸長を思えば、日英の同盟関係は大変意義深いと言えよう。しかも、その後に待ち受ける米英との戦争を思えば、日英の同盟関係の解消が惜しまれてならない。
だが、引用した第二次協約の第3条のように、韓国に対する優越権を日本に認めるなど、内容は帝国主義そのものであった。絵葉書の絵のように、日英の少女が「Let's be friends!」と手をつなぐような甘いものではない。条約内容を正確に表現するなら、日英の少女のうしろでチマチョゴリやサリーを着た少女らが泣いているという構図になるだろう。
そう考えると日英同盟も日独伊三国同盟も、そして日米同盟もすべて仮想敵国を定めての軍事同盟であり、友好平和条約とは性格が異なる。日英同盟だけは美しい二国間関係を象徴している、なんてことはない。
これに対して、日英グリーン同盟は条約でも何でもなく、英国大使館が行った植樹活動だが、このような地道な活動が人の心と心をつなぎ、国際的な友好関係の基礎となるのだ。我が国は英国政治を議会制民主主義の大先輩として尊敬している。英国社会には王室に象徴されるような気品があり、多様性を認める寛容さがあることを知っている。
国際関係は国と国との関係というが、その本質は人と人との関係なのである。各地に植えられたイングリッシュ・オークが大きく育つことは、日英の真の友好が深まるのを象徴するかのように思える。
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