記事が1100本を超えました。いつもありがとうございます。読めない字の一つに「鑰」がある。答えは「ヤク」で、意味は鍵のことだ。鍵が見つからなくてあわてたなど、その大切さは誰もが身に染みて分かっているだろう。もう一つ大切なものと言えば、印(ハンコ)である。荷物の受取などサインでもOKなこともあるが、申請や契約など、印がないと話にならないことも多い。
古代の役所でも事情は同じだ。租税やら帳簿やら大切なものを納める倉庫のカギは、厳重に保管していなければならない。これなくして行政に対する信用確保はできない。印も行政の効力発生には欠かすことはできない。
坂出市府中町に「国府印鑰明神遺跡」と刻まれた碑がある。大正天皇の御大典を記念して、大正五年に建てられた。マリンライナーの車窓からよく見えるので気になっていた。
印鑰は「インヤク」と読み、国府の印と鍵のことで、この地に「印鑰明神」という神社があったことを、碑は示している。府中町の地名からも分かるように、この近くに讃岐国府があった。
「印鑰明神」とは非常に珍しい神社かと思ったら、意外にもそうではない。八代市鏡町鏡村の印鑰神社、七尾市府中町の印鑰神社、福岡市東区香椎三丁目の印鑰神社、佐賀市大和町大字尼寺の印鑰神社、久留米市御井町の印鑰神社、西都市大字三宅の印鑰神社、山形市鈴川町二丁目の印鑰神明宮などがある。
このうち、七尾は能登国府、佐賀は肥前国府、久留米は筑後国府、西都は日向国府と関連があるように思える。八代は肥後国八代郡の郡倉との関連があることが分かっている。おそらくは、国府機能が衰退してから、大切な印鑰を神社のご神体として祀るようになったのだろう。
讃岐の印鑰明神遺跡碑には「府中邨奨学義田」とも刻まれている。史跡保存のために義援金を集めて土地を公有としたのだという。国府所在地を誇りとする府中村の人々の心意気が感じられる。
「印鑰」は漢字が珍しいだけでも話題とする価値があるが、律令時代からの由緒を伝える貴重な史跡だ。マリンライナーはけっこうスピードが出ているが、目に留めていただけたら幸いである。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。