うつろな瞳には心くすぐられるが、うつろな目は気の毒で仕方ない。何かやらかしてしまって呆然としている。それが明日の我が身かと思うとぞっとする。「うつろ」とは何だろうか。どこか不安定な、あてなくうろうろしているような、そんな状態に思える。虚空をさまようとか空虚な夢という言い方もする。虚ろであり空ろなのである。
UFOの好きな方なら「うつろ舟」を思い出すだろう。享和三年に常陸の海岸に漂着した円盤型の乗り物と中から登場した謎の美女。美女はうつろな瞳でこちらを見つめた、とは書いていないが、どうとらえてよいのか定まらない、何ともうつろな話である。
円盤型のお墓は全国各地にあり、一般には円墳と呼ばれている。本日はうつろな玉が出土したという円墳を訪ねたのでレポートする。
津山市加茂町塔中(たっちゅう)に市指定史跡の「万燈山(まんどうやま)古墳」がある。
見どころは巨大な横穴式石室だ。暗くてよく見えないが、目が慣れてくるとずいぶん奥行きがあることが分かる。本ブログでは県下三大巨石墳のうちこうもり塚古墳と牟佐大塚古墳を紹介した。それらに比べれば少し小さいようだが、どのような古墳なのか、説明板を読んでみよう。
加茂町指定史跡 万燈山古墳
万燈山古墳は直径約24m、高さ4mの円墳と推定されています。昭和46年11月から12月にかけて発掘調査が行われ次のことがわかりました。
南に開口する横穴式石室であり全長約11m、玄室長6.5m、幅2.2m~2.4m、高さ2.8mで、現在わかっているものでは、県北最大の石室です。この石室の中に組合わせ式の石棺1、陶棺1、木棺7があり、20体以上の埋葬者がたしかめられ、また羨道入口において大がめなどを破砕した葬送儀礼あとが見つかりました。
石室内からは次のような遺物が出土しました。金環21、勾玉7、管玉6、切子玉6、大玉・小玉類130、小金環2、空玉(うつろだま)20、直刀9、刀子(短い刀)14、鉄鏃(鉄のやじり)10、馬具2組(鉄地金銅張飾具付)、馬鈴2、鉄滓及び土師器多数、須恵器の高坏5、坏21、まり(水や酒を盛った器)2、提瓶(ていへい)5、平瓶(へいぺい)3、壺2、坩(つぼ)2、台付鉢1、大がめ1、他破片多数。(出土品の一部は加茂町歴史民俗資料館に展示しています。)
この遺物のうち鉄地金銅張の馬具類や馬鈴は、石室の規模とともに、この古墳に葬られた人が当時の社会階層の上位にあることを示し、鉄滓は、鉄生産又は加工を行ったことを示しています。
この古墳は6世紀後半(約1400年前)に築造され、7世紀始めまで追葬が行われたものです。
加茂町教育委員会
一つの古墳に20体以上の埋葬者とは、もはや現代の代々墓のようだ。古墳時代末期に美作最大の権勢を誇った一族がいたのだろう。石室の大きさは全長約11mと三大巨石墳には7~8m及ばないが、玄室長の6.5mは牟佐大塚古墳を上回る。鉄滓が出土していることから、鉄の生産供給を権力の源泉としていたのかもしれない。
金環も気になるところだが、注目すべきは各種の玉の多さで、これこそ権力の象徴であろう。この中で私が気になるのは、やはり「空玉(うつろだま)」である。どれほどの権威を示す出土品なのかは知らないが、製作にひと手間もふた手間もかかるのは間違いない。
内部が空洞になっているから空(うつろ)という。ただそれだけのことだが、どこか不安げな、どこか空しいイメージから離れられない。意味あるものの意味が失われ、時を経て意味が問い直される。色即是空、空即是色は歴史と現代の対話だろうか。
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