我が国で一番長い国道は何号だろうか。普段よく利用する2号は長い印象を受ける。旧山陽道を継承し、大阪から北九州を結ぶ。もちろん全線走破したことはない。旧東海道を継承した国道1号も長そうだ。もっと長いのは旧奥州街道を継承した国道4号だが走ったことがない。さらに長いのは国道58号で鹿児島と沖縄を結んでいる。結ぶとはいえ、かなりの距離が海上で占められている。
以上4つの国道を長い順に並べると、58号、4号、1号、2号となるが、実は4号と1号の間に入る全国3位の国道がある。それは国道9号。旧山陰道を継承して国道2号とともに中国地方の大動脈として活用されている。本日は山陰道の話をしよう。
鳥取県岩美郡岩美町蒲生(がもう)に歴史の道百選「山陰道-蒲生峠越」があり、その中ほどに「石畳道」がある。
歴史の道百選は文化庁が平成8年と令和元年に選定した由緒ある古道で、さすがに長い山陰道からは4件も登録されている。京都方面から挙げると「唐櫃越・老ノ坂」「細野峠越」「蒲生峠越」「鎌手峠越・徳城峠越・野坂峠越」である。
山陰道は海岸沿いを通過するイメージがあるが、そこは山陰本線と異なり、但馬の山々を越え蒲生峠で因幡に入ると、やっと海に向かうこととなる。選定当時の説明板が残っているので書き写しておこう。
文化庁選定 歴史の道百選 歩いて見て感じる歴史の道
山陰道-蒲生峠越(鳥取県岩美町-兵庫県温泉町)
平成八年十一月六日選定
山陰道は山陰から京都へ通じる道で、蒲生峠は本町塩谷より温泉町千谷に越すルートとして古くから利用されてきた。秀吉勢の因幡進攻、慶応四年(一八六八)春の山陰道鎮撫使は当地、蒲生峠を越えて鳥取へ向かった。(鳥取から蒲生峠までは二四・九km、蒲生から峠までは二・九km、峠から温泉町千谷までは三・二kmであった。)
明治時代になって山陰道が一級国道に選定され、国による整備が急速に進んだ。その第一~二回の改良は「歴史の道百選」に選定された塩谷-蒲生峠線であったが、第三回目の改良では塩谷-山ノ神-洗井-蕪島-蒲生峠に変更され、明治二五年(一八九二)に改良が完成した。人はもとより人力車、荷馬車などの往来で賑わい、峠には茶屋があった。明治時代終わりに国鉄山陰線が開通するとともに峠が寂れたが、第二次大戦後の自動車交通の発達にともなって改修が行われ、昭和三八年(一九六三)に完成、昭和五三年(一九七八)には蒲生トンネルが完成し、峠道の役割は終わった。元国道筋であった塩谷-蒲生峠線は、路面が水で流されるなどしてかなり荒れ果てている。
峠の標高は三五六mで、明治二五年(一八九二)九月、往来人の安全を祈願した「延命地蔵大菩薩」と台座に記された地蔵が建てられたが、地蔵は心ないない人に持ち去られて今はなく、台座だけが残っている。ここから塩谷集落までは約三kmの山路である。途中、山ノ神集落の裏から登る山路が途中で合流しており、その辺りには石畳も部分的に残っている。
平成九年三月 岩美町教育委員会
但因国境の要衝として、羽柴秀吉や西園寺公望も通過したのだという。明治以前の因幡側のルートは急坂を一気に下っていたが、維新後に行われた2回の改修で「歴史の道」ルートに改良されたようだ。確かに高低差が小さく、サクサク歩くことができる。
3回目の改修では県道31号及び119号のルートとなり、遠回りであるが楽に通過できるようになった。その後自動車交通の発達に伴い、現在の蒲生トンネルのルートが完成したというわけだ。私は県道ルートで快適に蒲生峠までやって来たが、今も残るという石畳に惹かれて歴史の道を歩くこととした。
それは8月初めの暑い時季だった。説明板で地図を見ていたものの距離感がつかめず、歩いても歩いてもたどり着けない。あのカーブまで行ったら引き返そうか、とあきらめかけていた時、説明板が視界に入った。少し駆け出し気味に行ってみると、枯葉に埋もれながら石畳が残っている。説明板を読んでみよう。
歴史の道「山陰道-蒲生峠越」(石畳道)
峠道で唯一この箇所に石畳道が残っている。明治時代に山陰道が一級国道に選定され、国による整備が急速に進んだ。その第1~2回の改良が、この峠道(塩谷-蒲生峠線)である。改良前、この峠道は、主として人々が歩いて往来する道であったが、改良されてからは、人力車、荷馬車なども通行するようになった。
このような貨車の往来に伴い、水はけが悪く道の状態が思わしくないこの付近に石畳を敷いたものと思われる。地元の人の話によるとこの石畳付近では貨車がすべって動かなくなるほど通行が困難であったと云う。
石畳の道と聞けば小京都のような落ち着いた風情を感じるが、ここでは景観ではなく、ぬかるみを防ぐという現実的な必要性があった。この歴史の道が活用されたのは明治期前半。文明開化の音がしていた時代だ。この石畳の上を人力車の客は、どのような思いで通ったのだろうか。
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