京都文化博物館で「よみがえる承久の乱―後鳥羽上皇 vs 鎌倉北条氏―」というめったにお目にかかれない秀逸な展覧会が4月6日に開幕した。しかし、緊急事態宣言の発令により25日から5月11日まで休館となり、さらに宣言延長のあおりを受けて再開することなく閉幕してしまった。
コロナ禍でなかったら絶対に行っていたであろうにと、かえすがえすもコロナ憎しの思いがする。人類がウイルスと戦う現在から800年前、後鳥羽上皇は北条氏と戦った。上皇は不埒な朝敵を討伐しようとしたのだが、返り討ちに遭って島流しとなる。一連の動きは「主上御謀反」という自家撞着した表現で語られる。謀反とはどういうこと?謀反したのは誰?
本日は承久の乱800年記念として、ゆかりの地を訪ねたのでレポートする。
備前市吉永町加賀美に「皇屋敷」と刻まれた石碑がある。「海軍大将従三位勲一等功四級山本英輔謹書(花押)」とあるから、山本権兵衛首相の甥で連合艦隊司令長官を務めた山本英輔による揮毫だ。
ここは備前から美作に抜けるルート上にある。この地に後鳥羽上皇が滞在したというのだ。記録を確かめてみよう。『承久軍物語』によれば、承久三年(1221)7月13日に隠岐配流の旅が始まった。その後の記録はおおざっぱで、次の日付は出雲国大浜湊に着いた7月27日となる。ここ備前の地はどのように登場するのだろうか。『承久軍物語』を読んでみよう。
はりまのくにをもすぎさせたまふ時、こゝはいづくぞと御たづねありければ、明石の浦とこたへ申ければ、
都をばくらやみにこそ出しかど月はあかしのうらにきにけり
白拍子亀菊御ともに侍しが、
月影はさこそあかしのうらなれど、雲ゐの秋ぞなをも恋しき
美作と伯耆とのさかひなる中山をこえさせ給ふとき、向ふの岸に細き道あり。いづくへかよふ道ぞと御たづねありければ、都へかよふふるき道にて侍ると申ければ、
都人誰ふみそめて通ひけんむかふの道のなつかしきかな
「明石の浦」の次は「美作と伯耆とのさかひなる中山」であり、備前は完全スルーである。実はこの軍記に遷幸ルートとして登場する地名は極めて少なく、整理すると「都(鳥羽殿)→水無瀬殿→明石浦→美作と伯耆とのさかひなる中山→出雲国大浜湊→隠岐国阿摩郡苅田郷」となる。
播磨から美作に直接入ったのか、備前を経由して入ったのか。ルートには謎が残る。こうした類の謎が「後鳥羽伝説殺人事件」が発生する要因となるのだが、同事件の舞台は備後地方である。備前の皇屋敷跡では、遷幸ルートがどのように語り伝えられているのだろうか。副碑を読んでみよう。
承久乱后(承久三年西紀一二二一)北條氏三上皇を遠島御遷座を謀る。天下悲憤慷慨幕府之を懼れ険峻を顧ず間道寺道の短距离を選び、窃(ひそか)に遷幸を行う。後鳥羽院隠岐御遷幸亦然り。現姫路市より上郡町太山寺、吉永町御所成桜渡、皇坂八塔寺、作東町薬水寺道を御通輦と洩れ承る。里人恐懼微忠を致すは此秋也と、急拠此地に假殿を造営待期す。七月九日御泊、翌日御子成を圣て柿原に渡り給いしと伝う。今此聖地に建碑往時の忠誠を偲び之を后昆に伝う。
昭和四十六年九月二十日
吉永町後援 八塔寺観光協会建之
姫路を出発した上皇は、西高野として知られた太山寺(上郡町高山)を通過し、才ヶ峠(行頭峠)を越えて備前に入り、備前市吉永町高田の八塔寺川ダムのあたりから北上して八塔寺に入った。これを7月9日のこととするが、京出立が13日だからこれはおかしい。皇屋敷で一泊した上皇一行は、美作市柿ケ原を経て同市鈴家(すずけ)の薬水寺、林野の安養寺へと進み、その後出雲街道に合流したのだろう。児島高徳が後醍醐天皇も備前経由ルートで来ると見立てたのは、この先例があったからだ。
そもそもこの乱は、白拍子の亀菊の申し出によって、摂津の長江・倉橋の両荘園の地頭をやめさせるよう、上皇が二度も命令してきたことに端を発している。北条義時は「将軍がおられる時に幕府のためによく働いた武士を任命した地頭の役職は、さしたる過失がないなら、やめさせることはできない」と主張した。権力者に忖度して恣意的な措置をとることなく、法と慣例に基づいて対処したのである。
あれから800年。森友問題で当時の安倍首相が「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい!」とムキになって反論したことに端を発して、財務省の公文書改竄が始まったという。これに抵抗した職員が残した記録「赤木ファイル」が6月22日に公開された。
鎌倉武士は、忖度を求め武力を行使する無道の君を討つことをためらわなかった。800年間に何が進歩し、何が変わらず、何が失われたのか、今一度整理する必要があるだろう。人々の心を動かす現代の北条政子首相は出現するであろうか。都議選で都民ファが惨敗しなかったのは小池劇場のおかげとか。ちなみに北条政子は夫婦別姓だった。
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