見事な柱状節理で知られる玄武洞が昨夏から有料化された。私が訪れたのは一昨年の冬だったから、少々ラッキーだったのかもしれない。天空の城として知られる竹田城も、行こう行こうと思っているうちに有料化(平成25年)され、行かずじまいとなっている。
ふだん無駄遣いしている金額に比べれば誠に微々たるものだが、料金徴収があるのとないのとでは大きな違いに思えてならない。本日は有料化前の貴重な写真(今も変わらないが)とともにレポートすることとしよう。
豊岡市赤石に「玄武洞」がある。あとで紹介する「青龍洞」とともに国の天然記念物に指定されている。
すぐ近くの円山川は穏やかな流れだが、県道を渡って階段を上がると、とてもこの世とは思えない岩肌が見えてきた。この光景はアニメかゲームか、テーマパークのアトラクションか。とりあえず説明板を読んでみよう。
天然記念物 玄武洞
玄武洞周辺の岩石は灘石と呼ばれ、江戸時代から採石場として開発されてきました。その中心的存在として最も大きい玄武洞、節理の美しい青龍洞、小さいけれど間近に節理が見られる白虎洞、羽を広げたような北・南朱雀洞、それぞれ特徴のある5つの洞窟は、景勝地として知られてきました。特に、玄武洞と青龍洞は節理の美しさや学術的な重要さから、1931年(昭和6年)に国の天然記念物に制定されました。なお、玄武洞は山陰海岸国立公園(1963年制定)に含まれ、2007年には日本の地質百選にも選ばれています。
豊岡市 協力:兵庫県立人と自然の博物館
洞窟になっているのは採石されたためである。玄武のほかに青龍、白虎、朱雀と四獣そろっていることは初めて知った。得した心持ちになり、次の説明板を読んで驚いた。
玄武洞と玄武岩、名前の由来
文化4年(1807年)、この地を訪れた江戸時代後期の儒学者・柴野栗山は、この洞の岩石が作り出す節理の形や断面の模様などから、中国の妖獣「玄武」を連想し、「玄武洞」と命名しました。さらに明治17年(1884年)、東京帝国大学の小藤文次郎博士は、玄武洞にちなんで、同様の岩石の名称を玄武岩と名付けました。なお、玄武洞以外の青龍洞・白虎洞・朱雀洞などの名称は、大正時代以後に観光用として名付けられたものです。
豊岡市 協力:兵庫県立人と自然の博物館
まず玄武洞の命名者が、寛政異学の禁の柴野栗山先生であること。そして玄武岩の命名が玄武洞にちなんでいること。さらには青龍、白虎、朱雀という三獣が観光用に名付けられたことだ。人が行う命名には、それぞれの思いが込められている。では、ジオサイトとしての玄武洞はどうだろうか。
玄武洞の溶岩をつくった火山
今から300万年前頃から1万年前頃、但馬地域一帯では盛んに火山の噴火が起こっていました。そのなかで、玄武洞付近を構成しているのは、約160万年前に流れた玄武岩の溶岩であるとされています。その火山の形は残っていませんが、公園の周囲や円山川をはさんだ対岸の地域にも同じ玄武岩が分布しており、広い範囲を覆った火山活動があったことがわかります。
豊岡市 協力:兵庫県立人と自然の博物館
約160万年前の火山活動で噴出した溶岩が冷えて固まり、柱状節理によって今日の姿になった。その火山は来日岳(くるひだけ)だと言われている。
玄武洞の南側に「青龍洞」がある。流れるような節理が滝壺に落ちる水のように見える。説明板を読んでみよう。
柱状節理の美しい青龍洞
岩石に見られる規則正しい割れ目を節理と言い、それが柱のようになったものが柱状節理です。玄武洞公園の洞窟の中でも特に美しい柱状節理を見せてくれるのが青龍洞です。このような柱状節理は、熱い溶岩が固まり、冷えていく過程で岩石が収縮してできたもので、溶岩の表面から中心部に向かって伸びていきます。
豊岡市 協力:兵庫県立人と自然の博物館
柱状節理の形成過程については片栗粉を使って実験できるそうだ。
玄武洞の北側に「白虎洞」がある。青龍洞の節理が垂直方向なのに対し、こちらは水平方向である。
横向き節理の白虎洞
白虎洞では、水平方向に伸びた柱状節理の断面を間近に見ることができます。玄武洞の垂直方向に伸びた節理と比べると、細いことに気付きます。一般に、柱状節理はゆっくり冷えた所ほど太くなるので、この付近では溶岩が速く冷えたこと、つまり溶岩の周縁部に近いことがわかります。また、横を見ると節理の断面が見られます。何角形が多いでしょうか。
豊岡市 協力:兵庫県立人と自然の博物館
節理の伸長方向は冷却時の等温面に直交するというから、溶岩の流れがそのまま現れているわけではなさそうだ。断面は六角形が目立つ。これはY字形の割れ目が最も効率がよい割れ方だからとのことである。
さらに北に進むと「南朱雀洞」がある。ここは説明板がたくさんあって勉強になる。読んでみよう。
溶岩の先端部
南朱雀洞脇の岩石を見ると、節理が見られず、表面がごつごつしています。これは溶岩流の先端に当たる部分です。溶岩の表面が急に冷やされて固まっても、まだ内部は熱く、あとから溶けた溶岩が押し出してきます。そのため、表面が破壊されて、塊状の岩石の集まりになるのです。近くで石をよく見ると、ガスの抜けた穴が見つかります。
豊岡市 協力:兵庫県立人と自然の博物館
伊豆大島の三原山の溶岩流は有名だが、あのような迫力ある光景が見られたのであろうか。
南朱雀洞のすぐ隣に「北朱雀洞」がある。これですべて巡ることができた。柱状節理なら「マグマの花咲く車石」で国指定天然記念物を、「柱が重畳したような玄武岩」で町指定天然記念物を、美しい滝との組み合わせなら「滝の流れは絶えずして」で紹介している。この3本で紹介したスポットは入場無料である。
玄武洞は有料化されたが、その価値は自然的にも歴史的にも十分あるし、その景観を維持していく経費も必要だろう。我が国が火山列島であることを安全に学習できる貴重なジオパークである。何といっても玄武岩発祥の地なのだから。
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