アポロが持ち帰った月の石といえば大阪万博で大人気の展示物で、見た目は地球の石と変わらないのに4時間待ちだったという。アメリカは人が月まで行って採集したが、中国は無人探査機「嫦娥(じょうが)5号」で採って来た。その石は「玄武岩」だったと中国科学院が先月19日に発表した。20億年前まで火山活動が続いていた証拠だという。
玄武岩なら珍しくもなんともない。地球でもよく見かける。しかし、柱を重ねたような玄武岩はちょっと珍しい。さっそく見に行くことにしよう。
岡山県苫田郡鏡野町土居に「女山(めんやま)の玄武岩」がある。町指定天然記念物である。
むかし親が自家製味噌をつくっており、煮た大豆を潰すのにミンサーという道具を使っていた。潰れた大豆が多数の棒状となってニュルニュルと出て来るのが、少々気持ち悪かった思い出がある。私は女山の玄武岩を前にして、そんなことを思っていた。これはいったい何か。『角川日本地名大辞典33岡山県」の「男山女山(おんやまめんやま)」の項に、次のような記述がある。
岩質は洪積世の玄武岩からなり、この地方によく見られる厚い第三紀層を貫いて上ってきたもので、洪積世以後の浸食作用によって軟らかい第三紀層が剥離されていくなかで、硬い玄武岩のみがドーム状に残った残丘の一種である。玄武岩が冷えて固まる際にできる六角形の柱状節理が、女山中腹の露頭などに広く見られる。
洪積世とは今で言う更新世である。洪積世の次が現代を含む沖積世であり、今は完新世と呼ばれる。更新世と完新世を合わせて第四紀という。女山の玄武岩は、その前の時代である第三紀の地層を貫くマグマだったのである。
そして、この見事な柱状節理。石垣のようにも、蜂の巣のようにも見え、ミンサーから出て来る大豆ペーストのようにも見える。ずいぶん激しい噴火があったことだろう。先月20日に阿蘇山が噴火し、近くの小学生はゴーグルを着用して登校したという。女山のマグマ噴出に人類は遭遇していなかったのだろうか、心配になってきた。
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