痛みに弱いのだが、歯の痛みは特につらい。何をしていても気になるし、気分まで滅入ってしまう。以前、休み前の晩に奥歯が痛み出したので、「このまま無為に休日を過ごすわけにいかぬ」と休日診療所を訪ねた。するとあら不思議、当番医師の的確な処置で嘘のように痛みが引いた。どこのどなたか記憶にないが、今も心から感謝している。
岡山市北区御津金川に「歯いたの神さま」がある。左側の丸い石のことだ。表示はないが『御津町史』に掲載されている写真と一致するから間違いないだろう。
歯痛によく効くのは、堀辰雄も愛した如意輪観音である。「いてぇ…」と頬を押さえているポーズが共感を呼んだのだろう。本当は「思惟」という考える姿勢なのだが、アンニュイな雰囲気を感じ取って好感を抱く人は多い。
ところが金川の神様は球形で、歯痛とどう関係しているのか、よく分からない。『御津町史』の解説を読んでみよう。
金川高校の東に籔があったころ歯いたの神さまという丸い石があった。今は金川九五九-六の地蔵さまのそばに置かれている。大理石でできた五輪塔の水輪である。五輪塔は地水火風空の五重でできている。
以前の場所は東塔といって寺院のあった所、風化の状況から、室町中期を下らぬように見受けられる。当時の豪族の墓石かとも考えられる。宇喜多直家が松田累代の墓石を完全に打ち砕いたという伝説もあるので、場所がら歯いたの神という名目で守り祀られてきたのではないかとも推測される。
球体はどうやら五輪塔の丸い部分で、もとは金川城主松田氏の古い墓だったのでは、と推測されている。松田氏供養の隠れ蓑が歯痛の神様の正体なのだ。西備前に覇を唱えた松田氏だったが、戦国の荒波に呑まれて消え去ってしまった。城下の人々はおそらく、自らの歯の痛みを松田氏の無念と重ね合わせ、丸石をよすがとして供養をしたのであろう。
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