現代の我々でも巨大な岩の前に立つと圧倒的な存在に感心してしまうが,古代の人々にとって,それは神そのもののイメージであった。
玉野市玉に鎮座する「玉比咩(たまひめ)神社」の境内に巨岩がある。
玉,玉と続くのは,すべてこの巨岩「玉石」に由来する。古代の磐座だったのだろう。今では「立石」と呼ばれている。この岩には,次のような伝説がある。
大昔,ある夜にこの岩が一大音響を発して割れ,三つの火の玉がとび出した。一つは背後の臥龍山へ,もう一つは西大寺へ,残りの一つは牛窓へ飛び去ったという。火の玉が出た場所は,今でも丸く日輪の形に残っている。
ぬばたまの 夜は明けぬらし 玉の浦に あさりする鶴 鳴きわたるなり(万葉集巻第十五3598)
この歌は遣新羅使の一員が玉の浦で詠んだものだ。この「玉の浦」はここ玉野市玉の地域だと地元では言っているが,倉敷市玉島でも尾道市でも我こそはと名乗っている。石は黙して語らないが,歴史街道・瀬戸内航路のドラマを知っているに違いない。
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