神社の境内に「伊勢神宮遥拝所」が置かれていることがある。「遥拝(ようはい)」とは遠くから拝むことで、遠く離れた場所からも伊勢神宮に拝礼できるのである。戦時中は宮城遥拝が全国各地のみならず日本の占領地でも行われていた。
要するに、神聖なるものに遠くから頭を下げるわけだが、ふつう伊勢神宮も皇居も見えない場所から行われている。本日紹介するのは、けっこう距離はあるが、見える島を拝む話である。
舞鶴市野原に「冠島(かんむりじま)」と「沓島(くつじま)」がある。幽かだが、確かに島影を確認できる。本土から10kmくらい離れているらしい。天橋立の展望所として知られる傘松公園に、平成26年2月、冠島沓島遥拝所が置かれた。写真はそこからの眺めである。
この二つの島は無人島だが、冠島にオオミズナギドリ、沓島にウミネコやヒメクロウミツバメが繁殖し、冠島は国の、沓島は市の天然記念物にそれぞれ指定されている。
なぜ、これらの島は遥拝されるのだろうか。遥拝所に設置されている説明板を読んでみよう。
遥拝所の鳥居の先のかなたに浮かぶ二つの島が冠島沓島です。室町時代の画僧雪舟は「天橋立図(国宝)」に本来ならばこの構図に入らない島を絵の右下に描き込んでいます。
それは、この島が天橋立を含む若狭湾沿岸の住民から篤く崇敬され、神宿る特別な島であることを雪舟が知っていたと考えられています。
冠島沓島は籠神社ご祭神の彦火明命(ひこほあかりのみこと)と市杵嶋姫命(いちきしまひめのみこと)が天降(あまくだ)り夫婦となった神聖な島として古代から特別視されて来ました。この島に宿る神様は海を行き交う船をお守りし、人々の暮らしが豊かになるように見守っておられます。(後略)
ヒコホアカリは豊作、熱、光をつかさどり、イチキシマヒメは海の神である。この夫婦を信仰しておれば、大地も海洋も安泰というわけだ。雪舟が無理やり「天橋立図」に描き込んだのも首肯できる。
島を遠くに望み、そこにまします神に祈りを捧げる。大自然を前にした人間の謙虚さがそこに表れているように思う。神と人、そして鳥との共生社会がここにある。
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