今月21日に行われた中央競馬で、5レースの1着馬を全て当てるWIN5(5重勝単勝式)の払戻金が、史上最高額の4億2012万7890円となったようだ。的中者は、たったの一人。「人間万事塞翁が馬」のとおり、人生は予測がつかない。
ギャンブルの話をするつもりはない。馬なのだ。我が国の馬の歴史に、あの暴れん坊将軍、徳川吉宗が関係しているという耳寄りな話である。
和歌山市吹上一丁目に「徳川吉宗公之像」がある。原型製作は田畑功、和歌山虎伏ライオンズクラブの寄贈である。
吉宗の騎馬像は実に絵になる。なぜ馬に乗っているのか。ちなみに、白馬で浜辺を疾駆する暴れん坊将軍をイメージしているのではない。享保年間に吉宗が西洋より馬を輸入したとの史実に基づいている。徳富蘇峰の大著『近世日本国民史』には、次のような記述がある。
吉宗は亦和蘭舶よりして、アラビヤ馬種をも輸入せしめた。
一 地より鞍下迄四尺五寸より六寸迄之男馬 三疋
右同尺之女馬 二疋
右御用に候間、可牽渡候。左あるに於ては、為御褒美御定銀高之外に、八百貫目分之臨時商売可差免候間、其積りを以荷物可積来候。尤御定船数之外に、馬船一艘可乗渡候。右寸尺より大長成馬程は宜候。小長成馬は御用に無之候。且又馬数之儀も、余計牽渡候分は不苦候間、才覚相調候はゞ、五六疋より十匹迄は可乗渡候。右之趣ぜねらるへ申達、来年入津之時分必可牽渡候。卯(享保八年癸卯)九月
斯くてケイツルは、享保十乙巳年六月十三日、馬と共に長崎に来つた。
一 体高四尺五寸から六寸(138cm前後)の牡馬3頭と同じ大きさの牝馬2頭
上記の馬が必要ですので注文します。取引後に褒賞として、所定の代金のほか、800貫目分の商売を許可するので、そのつもりで輸入してください。ただし、定められた数の船のほかに、馬を乗せる船を一艘用意してください。注文の体格より大きな馬はよろしいが、小さな馬は無用です。また、馬の数も多いのはかまわないので、工面できるなら、5、6頭から10頭までは輸入可能です。以上、長官に伝えますので、来年の入港の際には、必ず引き渡してください。享保八年九月
戦国時代の馬の体高が四尺程度と小さかったので、吉宗には大きな馬に改良しようというねらいがあったようだ。そこで享保10年(1725)、アラブ種を輸入するとともに、オランダの調馬師ハンス・ユンゲル・ケイゼルを招いて、飼育法や馬術の指導に当たらせた。
ただ、我が国の馬の改良は、明治時代に軍馬の育成が必要となって本格的に進められることとなる。享保期の馬の輸入が歴史を大きく動かしたわけではないが、よく知られる象の輸入とともに、吉宗の進取の気風を象徴する出来事と言えるだろう。
暑さも、もう長くはあるまい。また秋の味覚が楽しめる。秋刀魚か栗か松茸か。和歌山市のゆるキャラ「吉宗くん」は、和歌山ラーメンが好物だそうだ。人も馬もしっかり食べる季節、「天高く馬肥ゆる秋」がやってくる。
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