天地がひっくり返る。ありえないことを表現する例えだが、実際に起きていた。農作業に「天地返し」がある。これは下層の土を空気に晒すことで微生物を活性化させ、有機物の分解を促進する土壌改良である。確かに下と上の土を混ぜこぜにするのだが、本日のレポートはそんな表土の話ではない。大地が逆さまになっているのである。
高梁市川上町上大竹に「沢柳(さなぎ)の滝」がある。
ドライブスルーで滝見物ができるくらいアクセス至便で、気軽に訪れることができるが、探検家気分は味わえない。高さと水量があって滝壺も大きく、美しい滝である。パッと見では分からないが、天地がひっくり返っているというのだ。説明板を読んでみよう。
町指定天然記念物 沢柳の滝
昭和六十三年二月二十三日町指定
沢柳の滝はその源を一五キロメートル上流の高山台と神野(ほや)付近の大賀台に発する。いずれも石灰岩地帯であるため大地に降った雨は石灰岩を溶かしながらドリーネや鍾乳洞を作り岩石の割れ目や穴を通って地下にもぐりこんで伏流水となる。
地下で浸食されにくい泥岩、砂岩の成羽層に突き当たるとその層に沿って流れやがてどこかの地表に出る。一キロメートル上流の岩谷の谷川には神野台の伏流水がわきだし大久保台の伏流水を途中で合わせて水量を増し沢柳の滝に一気に落下する。下から古生代泥岩、砂岩層、古生代石灰岩層と二層の硬さの違う岩盤が見られここにも地層が逆転した「押し被せ構造」となっている。この三段の滝は伏流水が地表に出て流れ落ちる滝で全国でも珍らしく晴雨にかかわらずほとんど定量で濁ることのない美しい白糸の滝を形成している。
滝の高さは二十五メートル滝つぼの幅は約十四メートル奥行きはハメートルである。
川上町教育委員会
まず、このあたりは石灰岩地帯であることを確認しよう。この岩が南の海のサンゴ礁に由来することを以前の記事「三億年前のサンゴ礁は今」「神の代から続く石灰岩の景観」で紹介した。古生代石炭紀に形成された。
石灰岩は浸食されやすいが、その下に広がる泥岩砂岩層は硬く、地層の上を水が流れて川となる。その端部で水は一気に流れ落ち、私たちはこれを滝と呼んでいる。泥岩砂岩層は古生代二畳紀に形成された。近年はペルム紀と呼ばれている。写真では見えないが、この大地の下には中生代三畳紀の泥岩砂岩層があるという。
地層の形成年代を順に並べると、古生代石炭紀、古生代ペルム紀、中生代三畳紀となる。しかし、下から順に形成される地層が上から下へと並んでいる。もっと大きく捉え、古生代の芳井層群と中生代の成羽層群が逆転しているという見方もある。天気逆転の現場である。
なぜ天地はひっくり返ったのか。地層に両端から圧力が加わり、布にできたしわが斜め上に伸びて下の布に覆い被さるように、下の地層が上へと押し出され被さったのである。地表に現れた石灰岩地帯に浸み込んだ雨水は、伏流水となって地下を走り、やがて地表を流れて滝となる。
圧が加わって地層が逆転するまでに、どのくらいの時間を要したのだろう。天地がひっくり返る時には、どのような音がしたのだろう。その後、滝となるまでにどれほどの時間が経ったのだろう。しばらく思索を続けてみたものの、あたりには滝水の音が響くばかりであった。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。