「島根か鳥取か分からないけどそこら辺に行きました」という、いいかげんな名前のお土産がある。鷹の爪団の吉田くんがかます自虐ネタだ。確かに栃木と群馬、宮城と岩手など、あれ?どっちがどっちだったっけ? なんてこともあるだろう。岡山と広島もそうかな。
さて、参院選挙区の一票の格差を縮めるため、島根と鳥取を合区とすることを9日、自民党が了承したそうだ。そうなるとますます、どっちでもいいじゃん、みたいなことになりはしないのだろうか。都会の議員ばかりが集まって、地方創生が可能なのか。
地方には地方の良さがあり、見どころもたくさんある。島根の吉田くんは、NHKという公共の電波で「島根」をPRし、観光振興に大いに貢献している。私もそんな動きを応援したいと思う。
お勧めなのはYouTube「松江観光公式チャンネル」である。私は鷹の爪団が騒がしく紹介する「3分で分かる小泉八雲の怪談『大亀』」を視聴して、実際に現地に赴き大亀を拝観してきた。今日はそれをレポートする。
松江市外中原町の歓喜山月照寺に「天隆公寿蔵碑」がある。有名な大亀である。
これは迫力がある。雄叫びが聞こえてきそうだ。一見の価値があるし、これにまつわる物語も興味深い。あの小泉八雲が大亀について随筆に記している。『知られぬ日本の面影』のうち「杵築のことゞも」を読んでみよう。
八雲はまず、「杵築の拝殿の入口の上に蟠屈する龍の彫刻」と「春日神社」の「牝牡二個の等身大の立派な鹿」を紹介する。どちらも夜間に動き回って困ったという。そして、大亀に言及するのである。
しかしこの種の薄気味のわるい仲間の内で、夜間出逢つて最も凄いのは、松平家代々の瑩域たる松江の月照寺境内の奇怪なる亀であつたらう。この石の巨像は長さ殆ど一丈七尺で、頭を六尺も地上からあげている。その今では破砕せる背面には高さ約九尺の大きな立体の一本の石に、半ば消滅せる碑文を書いたのが立つてゐる。出雲の人々が想像してゐたやうに、この墓地の悪夢が、夜半動き出して、附近の蓮池で泳がうとするのを想像して見るがよい!さて、この怖ろしい脱線的行為のために、亀の頭は遂に折らねばならなかつたと伝へられてゐる。しかし実際で見ると、たゞ地震で壊はれたに過ぎないかのやうになつてゐる。
改めて写真を見てみよう。確かに首に折れた跡がある。そりゃ、ガメラのようなこの石亀が夜半に動き出せば、コワいわ。首を叩き落さねば人的被害が出るだろう。
しかし、八雲は冷静だ。地震で壊れたに過ぎない、と分析している。おそらくはそうだろう。お殿さまの墓にある像に誰が手を出すというのか。
この異形の大亀は、松江藩で最も有名な松平不昧公が、父で6代藩主の宗衍(むねのぶ)公のために造立したものである。大亀の背負う石には、宗衍公の事績が刻まれている。この碑の名称である「天隆公寿蔵碑」の「天隆公」は宗衍のこと、「寿蔵碑」は宗衍の生前である安永七年(1778)に建てられたことを物語っている。
この大亀はけっして化け物ではない。信仰の対象となっている霊獣である。不昧公が父の事績を万年の後まで伝えようとする孝行心から造られたものである。ただ、あまりにも迫力があったばかりに、怪談が生じることになったのだろう。
夏に怪談を楽しむ方も多かろう。幽霊の正体見たり、と何でも真実を明らかにするのがいいことではあるまい。本当にそうかも、と思えてこその怪談だからだ。
島根と鳥取の選挙区が合区になるとか、新国立競技場が奇抜なデザインで2520億円かかるとか、コワい話には事欠かない。今の一押しは、安保法制が違憲の疑いの晴れぬまま来週にも衆議院を通過する、という話だ。まさに怪談。真夏の夜の夢であればよいが。
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