煉瓦にノスタルジーを感じるのは赤いからだろう。原料の鉄分が酸化焼成で赤く錆びるからだそうだ。その赤はビビッドではなく、落ち着いた色味であり、少々不揃いであることも多い。そんな人間らしさを感じさせるところに惹かれるのだと思う。
敦賀市金ヶ崎町に「旧敦賀港駅ランプ小屋(金ヶ崎停車場ランプ小舎)」がある。昨年、市指定文化財となった。
横浜や舞鶴の赤レンガ倉庫と比べればずいぶん小さい。うちの近くに農具をしまう煉瓦造の納屋があるが、そのくらいの大きさだ。この小屋は小さくても大きな価値がある。敦賀市教育委員会の説明板を読んでみよう。
この建物は、敦賀―長浜間に鉄道が敷設された明治15年(1882年)11月に竣工したもので、旧長浜駅舎と並び国内における最古の鉄道建築物のひとつです。
国内最古の鉄道建築物の一つだとされるが、調べてみると、京都市伏見区深草稲荷御前町にある稲荷駅ランプ小屋には「国鉄最古の建物」という説明があり、明治12年の建築だという。昭和45年に「準鉄道記念物」、平成21年に「近代化産業遺産」に指定されているから、文化財としても稲荷駅ランプ小屋のほうが先輩格である。
それはさておき、そもそもランプ小屋とは何だろうか。中をのぞいてみよう。
赤と緑のランプがあるが、これは旅客や貨物など車両の役割を示すために使用したという。また、電燈のない時代、ランプは夜汽車の貴重な光源であり、その灯油の備蓄も必要だった。煉瓦造りの小屋は鉄道運行に欠かせない役割を担っていたのだ。
ランプは電燈に取って代わられ、今やLEDの時代である。煉瓦造はS造、RC造、SRC造となり、耐久性が格段に高まった。現代の照明は、つけると明るく消すと暗く、明暗ははっきり分かれている。これに比べて、近くは明るいが離れた場所は薄暗いのがランプだ。
そんなランプによる照度のグラデーションは、現代人にとっては記憶の彼方どころか、想像上の光景となった。ランプも赤煉瓦も生活経験にないから懐かしくもないはずだが、それでもノスタルジーを感じるのは、揺らぐランプの燈や不揃いなレンガなど、現代の規格にはない人間的な不確かさがあるからだろう。
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