おそらく宇宙で一番長い鉄道路線は「銀河鉄道」だろう。大銀河本線は地球とアンドロメダを結び、220万宇宙キロメートルの長さだという。宇宙キロという単位は架空だが、とてつもなく長い距離という感じがする。永遠の命を手に入れるため、鉄郎は銀河超特急999号で旅をする。メーテルとともに。
敦賀市白銀町にモニュメント「メーテルとの出会い」がある。
敦賀駅から気比神宮にかけての商店街には、松本零士の二大傑作『銀河鉄道999』と『宇宙戦艦ヤマト』のモニュメントが並んでいる。また、敦賀市コミュニティバスのバス停は、二作品の登場人物がデザインされていてゴージャスだ。
松本漫画と敦賀には、どのようなゆかりがあるのだろうか。モニュメントを紹介した観光協会のリーフレットには、次のような説明がある。
かつては東京-敦賀港を結ぶ「欧亜国際連絡列車」が走る鉄道と港のまちだった敦賀。1999年に敦賀開港100周年を記念して「銀河鉄道999」と「宇宙戦艦ヤマト」のモニュメントを敦賀駅から氣比神宮の商店街沿い(シンボルロード)に設置しました。
「敦賀開港100周年」には説明が必要だ。この「開港」とは、港が新しくできたという意味ではない。敦賀は、朝鮮王子ツヌガアラシトが来航するなど、古代から栄えた港だった。1999年の百年前、1899年(明治32年)には外国貿易港に指定、つまり開港場となったのである。
話を戻して、松本漫画と敦賀との関係である。この地が作者の出身地だとか作品の舞台となっているとか、そのようなゆかりではない。敦賀は欧亜国際連絡列車が発着し、999とヤマトは遥かなる宇宙を旅する。「鉄道と船での壮大な旅」というコンセプトが共通しているのだ。
事実、『敦賀長浜鉄道物語』(敦賀市立博物館)という展覧会図録には、東京~米原~敦賀~ウラジオストク~ハバロフスク~ワルシャワ~ベルリンという一枚の長距離切符が紹介されている。大正から昭和初期には、東京から東海道本線、北陸本線を経て敦賀に到り、浦塩(ウラジオ)航路、シベリア鉄道でヨーロッパに向かうルートが賑わっていたという。
ちなみに、杉原千畝が発行した「命のビザ」により戦乱のヨーロッパを脱出したユダヤ人は、シベリア鉄道から浦塩航路を経て敦賀に上陸し、神戸などからアメリカ等へ逃れた。
戦前の敦賀は、我が国と大陸を結ぶ玄関口であった。東京から来た「欧亜国際連絡列車」は、敦賀駅を通過し鉄道桟橋のある「敦賀港駅」に着く。その駅舎がこれだ。
敦賀市港町に「旧敦賀港駅舎」(敦賀鉄道資料館)がある。この建物は敦賀開港100周年を記念した再現であり、実際にあった場所もここではない。
鉄道桟橋は、現在の敦賀市金ケ崎町にあった。このあたりは、敦賀港駅舎をはじめとする洋館が立ち並んで、モダンな雰囲気だったようだ。
かつての鉄道桟橋に向かう線路は、貨物専用の「敦賀港線」として活用されていたが、平成21年に休止となった。ここを「欧亜国際連絡列車」が走っていたことも、今や夢物語にしか思えない。
だからこそ『銀河鉄道999』のイメージで語れるのだ。敦賀港の鉄道桟橋に降り立つ貴婦人がメーテルであっても、私は驚かないだろう。