不思議の数はなぜか7つである。世界七不思議とは、ギザの大ピラミッド、バビロンの空中庭園、ロドス島の巨像 、オリンピアのゼウス像 、エフェソスのアルテミス神殿、ハリカルナッソスのマウソロス霊廟、アレクサンドリアの大灯台と、古代の壮麗な大建造物を指す。
はるけき異国、そして失われし時への憧憬こそ七不思議の本質だろうが、実はけっこう身近に七不思議を見ることができるのだ。法然上人の生まれた誕生寺に行ってみよう。
岡山県久米郡久米南町里方の「誕生寺御影堂」は元禄八年(1695)の再建で、国の重要文化財に指定されている。その屋根に金色に輝くものがある。これが「誕生寺七不思議」の一つ「御影堂の宝珠」である。
美しい宝珠にはどのようないわれがあるのだろうか、説明板を読んでみよう。
御影堂の宝珠(境内)
御影堂屋根の玉は何? 人生究極のお宝!
参拝者が御影堂(本堂)を拝する時、棟の中央に置かれている「宝珠」は、まさに西方浄土の位置。人生で求めるべきところの真の宝であります「極楽浄土」の象徴といえる。
これはすごい。御影堂が東向きに建てられているだけだろう、と言う前に、宝珠に向かって合掌するがよい。極楽浄土を直接拝むことができるのだ。瞑目を続けて心の平安が得られた時、あなたは浄土が身近にあることに気付くのである。浄土はあの世ではなく、この世かもしれない。これが不可思議でなくて何であろうか。
さて、七不思議のうち残り6つが気になる。もう一度説明板を見て列挙しておこう。
逆木の公孫樹(境内)
御影堂の宝珠(境内)
秦氏君・御鏡(宝物館)
石仏大師(本堂脇壇)
黒こげの頭(本堂脇壇)
椋の御影(客殿)
人肌のれん木(客殿)
このうち「逆木の公孫樹」については、すでに紹介した。「椋の御影」に関する木が境内にあるので紹介しよう。
片目川の無垢橋のほとりに「両幡(ふたはた)の椋」がある。「誕生椋」ともいう。どのようないわれがあるのか、説明板を読んでみよう。
両幡の椋(三代目)
長承二年(一一三三)四月七日、法然上人御誕生の際、西より白幡二流とび来りて、椋の梢にかかりて七日の後、とび去る。
「両幡の天降ります椋の木は 世々に朽ちせぬ法の師の跡」
熊谷入道・詠
なるほど、これは不思議な出来事だ。白幡が出現するのは瑞兆である。宗教に奇跡は欠かせないから、これは素直に信じればよいだろう。
根元の五輪石塔が気になる。「誕生寺石造五輪塔」として県の重要文化財に指定されている。地輪の北面には、次のような銘が刻まれているそうだ。『久米南の文化財』(昭和56年)より
願主 証寿
応永卅二年乙巳(きのとみ)九月六日中
聖速阿(聖連阿の説あり)
応永32年は1425年であり、願主の証寿は赤松満祐の父である上総介義則だと伝えられてる。義則は美作守護に任じられていた。
話を法然上人に戻そう。上人がお生まれになったのは、もちろん誕生寺である。
誕生寺境内に「法然上人産湯の井戸」がある。ここは父の漆間時国の館があった場所であり、「法然上人誕生地」として県の史跡に指定されている。法然上人の弟子に、『平家物語』で有名な熊谷次郎直実がいる。出家した直実、蓮生は、建久四年(1193)に法然上人の生誕地に念仏道場を開いた。これが誕生寺の開創である。誕生寺の山号は「栃社山(とちこそさん)」というが、これは上人の乳母夫妻「栃之介、おこそ」にちなんだ命名だという。
さすがは浄土宗の宗祖、ひとつの寺院ながら、史跡に瑞兆、奇跡…と話題が豊富である。みなさまも歴史と伝説のアミューズメントパークに訪れてみてはいかがだろうか。