新日本名木100選(大阪市・読売新聞社)にムクノキは5本選定されており、岡山県からは「横川のムクノキ」が入選している。樹齢が長くて巨樹になりやすく、空洞化により異形の外観を呈するからか、「偉大な帝王の幻の旅路」や「宇那提の森はどこか」のように、伝説に彩られていることもある。本日はローカル版名木百選に入選したムクノキからのレポートである。
美作市角南(すなみ)に「御旅所のムクノキ」がある。御旅所とはお祭りの神輿が休憩する場所である。角南地区は南に開けた日向(ひよも)と北に開けた影という2地区から成る。山陽と山陰のような地名だ。日向にある角南神社のお神輿が、ここ影にある御旅所に渡御するのかもしれない。
ずいぶん後ろまで下がって、樹姿全体をカメラに収めた。樹勢盛んで枝は四方八方へと広がり、地域の象徴的存在として愛されている。根元にある真新しい標柱には、次のように記されている。
東美作路名木百選 勝英地域事務所
御旅所のムクノキ(ニレ科)
樹齢三九二年 樹高一八m 周囲(目通り)四・九m
令和四年一月吉日
東美作路名木百選はかつての勝英地方振興局が選定したもので、今の勝英地域事務所はその後身である。気になるのは樹齢が392年と一桁まで数えられていることだ。令和4年すなわち2022年から起算すれば、芽吹いたのは1630年すなわち寛永7年となる。東京大学の源流はこの年に設立された林家の私塾だというから、東大と歩みを共にしてきたわけだ。本当だろうか。
山陽新聞サンブックス『岡山の巨樹』(1993)によれば、「お旅所のムクノキ」は、目通り周囲4.7m、推定樹齢350年とある。また、『新編作東町の歴史』(昭和54)でば、町指定文化財の「角南神社御旅所のムクノキ」は、根回り5.3m、目通り4.7m、樹高17m、推定樹齢350年であり、「根元が空洞化して主幹が地上6mで止まる。」と説明されている。美作市になった現在は未指定だ。
いずれにしろ、近世、近代、現代と激動の歴史を生き抜いた偉大な樹木である。カナダ併合、グリーンランド買収、パナマ運河返還、ガザ地区所有と、トランプ大統領の帝国主義的要求が高まっている。今のところ我が国に対して厳しい要求はないが、先が読めないのが現状だ。合衆国より古い歴史のあるムクノキは、これから何を見聞きすることになるのだろうか。
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