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井戸が生活の源だった頃

「紀行歴史遊学」開設以来の1日平均アクセス数が160を突破しました。ご覧いただきましたみなさまに、心より御礼申し上げます。今後もみなさまのご期待に沿えるような記事を提供してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。

蛇口をひねると水が出るのが当たり前だから、水のありがたみが分かっていない。湯水の如くという言い方があるが、そう言えるほどお金をつかったことがない。ケチなのに、風呂水はたっぷり入れるし、シャワーもジャージャー流す。湯水は湯水らしい使い方をしている。

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赤穂市坂越に「大道井(だいどうい)」がある。近くには酒蔵の奥藤(おくとう)商事がある。「忠臣蔵」という銘柄で有名だが、「乙女」がけっこう美味くて一升瓶を買った。

メインストリートの坂越大道(だいどう)は、酒蔵の他にもおしゃれなカフェが立ち並ぶ。その大道脇にモニュメントのような石がある。いったい何だ、これは。説明板を読んでみよう。

大道井は、「井筒」とも呼ばれ「生島の船井」「海雲寺の寺井」とともに坂越の三井(みつい)と言われた古い井戸でした。この井戸は、坂越の人たちの生活用水として大切にされ、また坂越浦に寄港する船や旅人の飲み水としても利用されていました。しかし昭和10年(1935年)に水道が通り、その役目を終えました。
この石は大道井の井戸枠の一部です。大道井は今も道路の下に残っています。

井筒と言えば相撲部屋で、逆鉾を思い出す。もろ差しがすごかった。それはいいとして、つまり井戸だ。三井の一つに数えられた歴史ある井戸だったらしい。水道のない時代には、貴重な水源だったのだろう。

本日は坂越湾に沿って東へと散策する予定だ。天気に恵まれ、海面が銀色に輝く。

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道沿いの斜面に何やら銘板がはめ込まれている。読んでみよう。

旧大師堂跡地
平成9年7月10日~12日の間の豪雨により裏山崩壊の為大師堂倒壊す。平成9年12月12日より復旧工事に着手し平成10年3月25日完了。新大師堂は現在地より約9米に建立す。

確かに9米ほど先に新大師堂があり、その手前に「弘法の井戸」がある。

弘法の井戸はこれまで幾度も紹介した。「またか」と思いながら、説明板を読んでみると…

弘法の井戸
昔、水不足に苦しむ坂越の人々を見た弘法大師が、「ここ掘れ、水が出る」と言って掘られた井戸で、「弘法の霊水」とも言われた。
かつては、広さ十畳、深さ二、三尺(六十~七十センチ)の池のようなもので、波打ち際にありながら、きれいな清水が湧き出ていた。水は炭酸水とされ、眼病や風邪などの熱に効力があると言われていたという。
この井戸から汲まれた水は、小島の人々の飲料水や、坂越から出て行く廻船の飲料水として利用されていた。また、坂越にあった風呂屋「大師湯」は、この井戸の水を船で運んで風呂を沸かし、多くの住民に親しまれていた。

我が国で炭酸せんべいは有名だが、炭酸を含んだ湯が湧く温泉はそれほど多くない。それより驚くのは、お風呂屋さんが船で水を汲みに来ていたことだ。井戸枠を保存するといい、災害に遭った井戸を復元整備するといい、井戸の不要な今の時代に坂越の人が井戸にこだわる理由は何だろうか。『赤穂の民俗その二-坂越編(二)-』に次のような説明があった。

坂越は坂越湾に沿って集落をなしているが、海岸まで山が迫ってきているため、井戸の掘れるような地形・地質ではなかった。たとえ井戸が掘れても、飲料水に不適であったり、十分な水量の確保は望めなかった。そのために坂越の人たちは、水には大変苦労をしてきた。
谷川の水を利用して洗濯したり、時には千種川まで足を運んでいた。谷川での洗濯といっても、田舎ではとても想像できないわずかな水の流れで、先を争って洗っていたのである。雨でも降れば一斉に谷川の水で、洗い物・洗濯をしていた。
風呂は、水・薪等の関係からか、個人の家には少なく、大衆浴場が利用されていた。個人の家の風呂を借りる時(もらい湯をする時)は、水汲みを手伝ったりしていた。
井戸があっても飲料水に適した十分な水量を確保できる家は稀で、親戚とか親しく交際している家の井戸を使用させてもらっていた。
井戸のある家でさえそうであるから、大半の家は、日常生活に欠かすことのできない水を共同井戸に頼っていたわけで、その苦労は並大抵ではなかったであろう。

なるほど、これで分かった。坂越の人々にとって井戸は生活に欠かせないライフラインだったのだ。もっともラインではないのだが、井戸端や風呂屋が人と人とをつないでいた。

うちの周辺は干拓地だから井戸がない。その代わり、用水に降りる石段がついた家が所々に残っている。今では臭いドブに何の用もないが、かつては流れる水で野菜を洗っていたのだろう。水道通水以前と以後とでは、水のある風景も水に対する意識もずいぶん変化したに違いない。


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